埼玉新聞取材

【シン・サイタマジン】若者の学び直しに一役



NPO法人「教育援護会」代表 川上大樹さん


1年前、高校3年の男子生徒が相談室の扉をたたいた。「出席日数が足りなくて卒業できない」。

事情を聴くと、友人関係に悩み朝になると、腹痛や頭痛で登校できないと吐露してくれた。その後、毎月のように訪れた男子生徒に「友人の言動をポジティブに受け止めなさい」と助言した。


「気が楽になった」と男子生徒は登校し、大学にも入学した。


富士見市から委託された教育相談「若者のための学び直し相談」の相談員になってから5年。

NPO法人「教育援護会」代表の川上大樹さん(40)は「大学入学を報告に来た男子生徒の笑顔が忘れらない」と頬を緩める。


母子家庭で育った。高校と大学は奨学金を借りたが、大学は授業料を免除されたため、奨学金を実家のローン返済に充てた。

教員になるのが夢だった。が、教育実習で事なかれ主義の現場を目の当たりにし、立ちすくんだ。

中学時代に物心共に支えてくれた塾に「恩返ししよう」と就職した。


2年後、経営を任され法人化し、1校だった塾は東上線沿線で15校の会社に成長した。

塾を通して、子どもたちには貧因や不登校、いじめなどさまざまな問題があり、入試で合格すれば幸せなわけではないことも分かる。10年前、「学校や塾ではできないことをやろう」とNPO法人を立ち上げた。


「親は子どもを他者と比較せず、存在そのものがうれしいと思い、子どもは安易に現実から逃げず、失敗しても軌道修正する力を持ち、生き生き生きる人間に成長してほしい」。


熱き思いを実践するため、同会は教育相談のほか、無利息の奨学金制度や地域のごみ捨いに汗を流している。